脳の表面で近松ばりのポエムを披露するものの死にたいが深まる夏

予定日に生理は来ないし、吐き気はするし、妊娠検査薬を買いますよ。
家族にばれないように、駅のトイレで検査薬に付けたと記憶しています。
ええ、赤い線が入るわけで。死にたいと思いました。
 
ちなみに20歳上のおじさんとつきあっていることは母にも報告済で、
そのときの母の反応は、「それお母さんのせいだよね?」の一言でした。
ええ、その通りです。あなたの彼氏は12歳上のおじさんですね。
わたしはそれを見て育ったので20歳上のおじさんとおつきあいしてますよ。
22歳の若い身空で。
 
さらにいうと、そのおじさんに会ってほしいといったこともありまして。
その当時私はおじさんのことが好きだったし、それを母にも認めてほしいとも思っていたし、こころのそこで、無理にでも引き離してほしいとも思っていました。

母はといえば、一度は会うことに同意をしたのですが、
当日になって会いたくない、とキャンセルするのでした。
ええ、娘の応援をすることも、反対するなら本気で介入することも、どちらもしないんですね。臆病さというかわたしのことは大事ではないのねと思い、とてもがっかりしたことを覚えています。
ああまた悲しい出来事を思い出してしまった。
 
ということを考慮にいれても、家族には絶対に言えない。
 
暗澹たる気持ちで、いろんなことをシュミレーションしました。
 
産む、産まない。
産むとしたら、結婚したい ひとり親など無理だし嫌だ。
産んだら、金がかかる、おじさんには娘もいるし、そもそもそんなに稼ぎもよくない。
金を稼ぐには就職せねば。いや、わたしまだ大学院にいたいし勉強したい。
ということは休学して産むのか?大学院の年間授業料は200万円前後。奨学金で学費をこれ以上払うのは無理だ。
そもそもまったく働きたくなくて大学院に進学したんじゃないか。
 
それから、産むならひとりで育てるの無理だから手伝ってもらわないと。それには家族に言わないわけにも。いやいやいやいや、絶対に言えない。
 
それからおじさんと子育て…。結婚したとして、年齢的に母と同じくらいに死ぬな。親と旦那の介護がダブルで、子育てあって、義理の娘がいて…。
しかもわたしはいま大学院生でどんな就職になるかわからない。
就職したとして稼いだ金は奨学金返済と子供育てるのとたぶん旦那の介護と母の看取りと…全部私以外の誰かのために使う人生だな。
絵に描いたような地獄だな。
 
絶対にありえない。
 
だから、妊娠が発覚した時点で中絶することは決定事項でした。
 
冷徹な判断をする自分に、父親の脳死状態が長く続いたら人生が崩壊するから迷惑だなと考えていた自分や、父の遺体を前に涙も出ずウォークマンをもらうことを考えていた自分がよみがえって、なおさら死にたくなりました。

父親がむしろ死んだほうがいいんじゃないかと思っていた11歳と、
宿った命をためらいなく堕ろすと決めている22歳と、
何も変わっていない、むしろ人でないものに進化しているんじゃないかと空恐ろしく、そんなことを考える自分に対する罪悪感は募ります。BGMはこちら。
 
だからこそ、初めから中絶を決めている自分を否定したくて、おじさんのことが大好きなのに今世では結ばれない運命なのヨヨヨみたいな、近松なのか演歌なのかという悲劇のヒロイン妄想を爆発させておりました。
脳の表面で近松ポエミーしているバックグラウンドでは現実的すぎる未来予想を展開してほぼ即座に中絶することを決めていた自分への嫌悪感は増すばかりです。

「自分のことが嫌い」という言葉が出てこない代わりに、
さらに死にたい気持ちが深まる、暑いあつい夏でした。